【書評】僕が「知識の幅が広い」と言われる理由『RANGE〈レンジ〉 知識の「幅」が最強の武器になる』

 

 さて、天才と言われれば、皆さんは誰を想像するだろうか?あるいは、どのような人を想像するだろうか?ちょっと考えていただきたい。恐らく、皆さんが想像するのは、小さいころから才能に恵まれ、一つのことを極め抜き、トップに登り詰めた人ではないだろうか?大体エジソンも似たような名言を残しているではないか。「天才とは1%のひらめきと99%の努力」という言葉は、世界中に浸透している。実は、この本には、如何に皆さんが「間違った木」を見ているかがよくわかる。つまり、この名言は、サンプル数が1で、エジソン自身の主観で作られた名言なのだ。エジソンファンには、ここでお詫び申し上げる。ちなみに、エジソンを馬鹿にしているわけではない。それだけはことわっておこう。しかし、僕が本当に言いたいのは、それなりの成果を上げたいなら、何も一万時間も練習しなくていい、ということだ。言い換えると、むしろ、一つのことを1万時間も同じ練習をしたら、リスクのほうが大きいということがこの本には書かれている。僕は、この本から、かなり役立つ勉強法や、考え方を学んだ。今回はそれを紹介しよう。僕の周りの人は、「知識の幅が広い」「本の名前が瞬時に出てくるのはすごい」と言ってくれる。その種明かしも少ししよう。

 

 まず、専門家は応用が利かなくなるのだという。これは、変化の激しい現代ではかなり致命的になる。何故なら、本書によると、「専門家は、何か変化が起きると、自分が得意な領域でしか考えなくなるため、視野が必然的に狭くなる」のだという。確かに、一理ある。この本の具体例では、フェデラーとタイガーウッズが紹介されている。タイガーウッズは、幼少期からゴルフに触れている。しかし、対するフェデラーはスポーツは何でもやってきたという。テニスに絞ったのは高校生ぐらいの頃で、そこから、テニスの王者にも君臨するほどの強さになった。フェデラーは、インタビューで「子供の頃に触れた多くのスポーツが今の自分に役立っている」と語る。なぜかというと、多くのスポーツをやったことで、対応力や柔軟性が身についたからだ。これは頷けるAという領域だけの人と、A、B、C、という領域の人を比べた場合、後者の人のほうが柔軟性は高くなる。次々と新しく変化していく現代では、柔軟性が大切だろう。そこで、僕はマインドマップを使って読書や勉強をしている。一つの概念から色々枝を広げていくことで、立体的に知識を理解しよう、という作戦である。これにより、理解度が大幅に上がっただけでなく、関連知識も出てくるようになった。これが、「知識の幅が広い」と言われる所以の一つだ。

 

 そして、最も役立った個所がある。「ゆっくり学ぶ」という章だ。これはどういうことだろうか?これは言い換えると「勉強は、効率を求めなくていい」ということなのだ。「ゆっくり考え方を身につけて、長期的に結果をだそう」と言いたいのだ。本書は、アメリカのある学校の数学の授業を取り上げている。著者は、「アメリカの学力が相対的に低いのは、教え方に問題があるからだ」という主張をしている。しかも、論文を使って。何が問題かというと、多くの場合、日本も含まれると思うが、「授業で、関連付けの質問がなされていない」ということらしい。確かに、学校や塾では、生徒を正解させることを塾の多くの先生は念頭に置いている。つまり、生徒を導いてしまっているのだ。これがよくないのだという。正解していると気分がよくなる。が、彼の紹介しているデータだと、、「授業の評価が低い先生のクラスほど、生徒の一年後の成績は伸びている」という。何て皮肉な話だ。では、教師は何をしていたのだろう。彼らは、授業中、学生の頭を文字通り悩ませていた。つまり、自分で考えさせたのだ。当然、知識がない学生は、一時的に成績が伸び悩む。すると、アンケートで酷評する。つまり、目の前の成績で親も成績も判断してしまう、という性質を表している。これでは、長期的には学生の役には立たないだろう。なので、授業では、僕も考えさせることを重点に置いている。そうすることで、理解度が深まるからだ。

 

 かなり長くなってしまった。それだけ、今回の書評では伝えたいことが多かったのだ。本書は、時代の変化が激しい現代では、バイブルともいえるだろう。僕も、かなり役立てている部分がある。柔軟性が広ければ、思い込みに支配されることもない。関連書籍としては、マシュー・サイド氏の『多様性の科学』が挙げられる。併せて読むと、より、理解が深まるだろう。

 

 最後に、知識は幅だ。問題が解決できないのは、大体の場合、知識の幅が狭いからである。そのことを教えてくれる本だ。ぜひとも、ご一読してはいかがだろう?

 

参考文献

デイビット・エプスタイン(2020~2021)『RANGE〈レンジ〉 知識の「幅」が最強の武器になる』東方雅美(訳) 日経BP

【書評】こうして、僕は運動で人生を改善しました。『スタンフォード式人生を変える運動の科学』

 

 

 これをお読みのあなたは、運動についてどう考えてきたのだろうか?僕は、運動が大好きだ。週2回はテニスをプレイし、朝は散歩し、その後ノルウェー式HIIT(ノルウェーで研究されたインターバルトレーニングの1つで、4分全力運動3分軽い運動を繰り返す)、そして、昼頃に2時間ほど散歩している。更に、読書や勉強をしているときは、エクサー社のオリンピック強化選手用のステッパーを踏んでいる。無論、書評を書いている今この時点でも、そのステッパーを踏んでいる。一日中動きっぱなしだ。しかし、中には、このような人もいるだろう。「運動なんてめんどくさいし、したとしても続かないじゃん。きついし。体力不足だし。」と思っている人である。しかし、そんな人こそ、ぜひ読んでほしい本がある。それが、この本書である。運動をするとどんないいことがあるのか、科学的に解説している本だ。しかも、そこまで難解な言葉がなく、具体例も載っているので、非常に読みやすい本だ。

 

 では、その中でも、僕に取って役に立ったことは何だろうか?それは、「運動すると、幸福度が高まる」である。つまり、幸せを感じやすいのだ。これは、一種のハイにも近い概念だ。著者であるケリー・マクゴニガル氏は、「運動し続けると、エンドルフィンやアドレナリンのほかに、内因性カンナビノイドも血液中に放出される。つまり、ハイになって、いつまでもできるような、それこそ誰かを抱きしめたくなるような気持ちになる」と解説している。実際その通りで、僕もノルウェー式HIITでこのような状態になる。実際、この本では、そのような状態になった人のことも取り上げられている。なので、実に説得力のある本だ。

 

 他にも、運動することで社会的なつながりが生まれることも指摘している。これは、先ほど挙げた運動によるハイになる現象とも関わっている。運動すると、気分がよくなることは、この本だけに限らず、いろんな書籍で紹介されているが、本書によると、気分がよくなることで、誰かとつながりを持ちたくなるのだそう。実際、僕もそのようなときがある。顕著なのが、散歩しているときで、美女と運動しながら話すことを、空想している(笑)。他にも、エリック・バーカー氏の『残酷すぎる人間法則』でも人間関係が人生を変えるという研究を紹介しているし、メンタリストDaiGoさんもそのように論文を解説している。つまり、運動して誰かとつながりを持つことで、人間関係から得られるメリットまで得られるのだ。実際に、僕も去年からテニスを始めたことで、年上の人とのつながりが増えた。もちろん、僕はもともと非社交的な人間ではあるが、運動で多少外向的になった。

 

 この本は、運動嫌いの人にはぜひ読んでもらいたい本だ。著者のケリー・マクゴニガル氏は、他にも『スタンフォード式ストレスを力に変える教科書』という本を出している。彼女の本は、考え方を根本から変えさせる。例えば、前出の本で言えば、ストレスは人間にとって悪いものではなく、人間を成長させるものであることが科学的に紹介されている。実際に、このように思うだけでも、効果があるらしい。

 

 本書も、運動に対する考え方を変える本だ。健康効果はもちろん、人間関係を作る。そのような意味でも、運動は人生を変えてくれるのだ。このような学びを提供してくれた本であった。

 

参考文献

ケリー・マクゴニガル(2020)『スタンフォード式 人生を変える運動の科学』神崎朗子(訳) 大和書房

【書評】ご紹介!このように僕は睡眠の悩みを解決しました。『賢者の睡眠 超速で脳の疲れを取る』

 

 これをお読みの方で、「寝ること」の悩みを抱えたことがない人は果たしてどのくらいいるだろうか?恐らく、いないだろう。睡眠は、僕たちにとって、健康という視点から、欠かせないものだからだ。と、言いたいのだが、実際は健康以外にも、重要だと言える点が数多くあるのだ。実は、僕は結構睡眠に関して悩んできた人間だ。僕は、生まれつき眠りが浅い体質で、寝つきがよくてもすぐに起きてしまうのだ。どのくらい起きやすいかというと、アパートで隣の部屋の人の目覚ましが鳴ったとすると、その音で僕が起きるのだ。そのくらい、僕は睡眠の悩みを抱えてきた。だが、僕はこの本で睡眠の悩みを大方解消できたのだ。今回の書評では、どのように僕が睡眠を改善してきたのか、二つ、ご紹介しよう。

 

 まず、大前提として、睡眠を改善する際に重要となってくるのが、「自分を知ること」だ。というと、どこか胡散臭い自己啓発のようになってしまうのだが、これは、言い換えると「自分のクロノタイプを知る」ということである。クロノタイプとは、「概日リズム」といい、早い話が体内時計である。特に日本では、早寝早起きがもてはやされがちだ。ことわざで「早寝早起きは三文の徳」という言葉があるくらいだ。しかし、これは、3分の1は間違っている。なぜかというと、この体内時計は、遺伝子で決まっているからだ。つまり、体の設計図に、夜型になる記述があるのだ。言い換えると、生まれつき、体の、生物のルールとして夜型になる人がいるのだ。僕もかなりの夜型だが、そんな人が、早寝早起きなんてしたらどうなるだろうか?あっという間に、一日のパフォーマンスは下がってしまう。そして、睡眠の質も下がってしまう。自分の生物としてのルールを無視しているからだ。そこで、クロノタイプを知ることで、まずは自分の体のリズムを確認しよう、というのが第1ステップだ。

 

 二つ目に、僕は「食事・運動」を整えた。特に、食事は重要だ。質のいい睡眠をとるには、質のいい食事が欠かせない。何故なら、僕たち人間は、寝てるときに体の成長や修復をするからだ。つまり、寝ているときに体のメンテナンスをするのである。そんな大切な時間に、ラーメンなどの油モノや唐揚げなどの揚げ物、サラダ油で高温調理した肉なんて食べたら、どうなるだろう。体に炎症物質が取り込まれ、体に炎症を起こしてしまう。また、運動も大切だ。実は、この本によると、適度に運動をしていれば、睡眠の質が上がるというデータがあるのだ。特にうってつけなのが、朝起きた後に散歩をすることだ。太陽の光を浴びながら歩くことで、記憶力や思考力が1日中保たれ、仕事や勉強のパフォーマンスが上がる。また、太陽光で体内時計をリセットできるし、更に太陽光を浴びると、幸せホルモンといわれるセロトニンが出る。このセロトニン、実は睡眠ホルモンといわれるメラトニンの原料になるのだ。つまり、朝の散歩でポジティブな感情が生まれ、仕事のパフォーマンスが上がる。そして、夜にはセロトニンをもとにメラトニンが作られるので、眠れるようになる。まさに、人類には欠かせない習慣が散歩なのだ。

 

 ここまで見てきて、気づいた方もいると思うが、睡眠を改善するのに特別なことなんていらないのだ。僕も、何一つ特別なことをしていない。食事と運動を整え、自分の体内時計の傾向を調べただけである。なので、少し行動を改善すれば、かなり睡眠を改善できるのだ。実際に、著者であるメンタリストDaiGoさんも「健康を維持するのにそこまでお金をかけなくていい。食事、睡眠、運動の順で改善すれば、人生は好転する」と言っている。なので、この本は、睡眠だけならず、仕事や勉強がはかどらない人にも、うってつけの本なのだ。

 

 最後に、僕は睡眠の改善は人生の改善だと思っている。睡眠不足は、何と人間関係にも深く影響する。睡眠不足は、人をより自己中心的にさせる。すると、相手の話を聞かなくなり、魅力も30%低減する。また、周りの人間が敵に感じられたり、ネガティブ感情の感度も上がる。逆を言えば、睡眠はを改善すれば、これらの問題は解消されるのだ。さぁ、もうこれは一刻も早く睡眠をよりよくしたくなっただろう。ぜひ、本書を手に取り、あなたも悪民から脱出してはいかがだろうか?

 

参考文献

メンタリストDaiGo(2021)『賢者の睡眠 超速で脳の疲れを取る』リベラル社

【書評】こうして僕は「繊細」という意味を知りました『敏感すぎる私の活かし方―高感度から才能を引き出す発想術』

「君は繊細過ぎるんだよ」「気にしすぎ」「もっとメンタルを強くしなきゃ」...幾度となく僕が言われてきた言葉だ。4年前の僕は、本書に出てくる性格特性を全く知らなかった。自分のメンタルが弱いと思い(実際はそうだったが)、筋トレや瞑想を続けてきた。メンタルの弱い自分を何としても直して、動じない心を手に入れたかったからだ。しかも、疲れというのも、神経がすり減り消耗するような疲れだ。これも、筋トレや瞑想が解決すると思っていた。ところが、いくらトレーニングしても、一向に改善しなかったのだ。相変わらず緊張しやすいし、頭でかなり考え込むし、きびきびとした行動はできないし。自己嫌悪にまで陥っていた。そんな中、メンタリストDaiGoさんがDラボでこの本を紹介していた。そう。本書は「HSP」について書いたる本だ。「高度に敏感である人」の意で、しかも、心理学者が論文に基づいて書いている。なので、信憑性も高い。僕は、多くのことに敏感で、ポジティブにもネガティブにも大きく振れる。この本の知識で、今の生活が刺さられていると言いても過言ではない。今回は、僕がこの本で使っているテクニックを紹介しよう。

 

 僕自身気を付けているのが、働く時間だ。これは僕にとって重大な問題で、日本では8~9時間拘束が当たり前となっている。しかし、僕は4時間も職場にいるだけでかなり消耗するのだ。この本では、働くことに関して、「短時間で働くのがあなたの課題だ」と言い切っている。ここが僕にとっては爽快で、「自分に会わないことには従う必要はない」ということを、教えてくれたのだ。何故、ここまで言い切っているのかというと、「長く働くことあ、他の人がやってくれる」からだという。確かに、言い方は悪いが、長時間働く人なんて、この世の中には多い。僕の代わりに、やってくれる人がいるのであれば、任せるのが合理的である。なので、この言葉を本で読んだとき、心底楽になった。

 

 また、もう一つ、この本で重要なのは、「多くの人が敏感性と内気を混同している」という点に言及している点だ。確かに、「敏感性とメンタルの弱さ」を混同してる場面を僕も見てきた。この本によると、敏感性というのは、脳の神経が反応しやすいということを心理学的には表している。対して、内気というのは、「社会からの拒絶に対する恐怖から生まれるもの」である。なので、この「敏感性」というのは、違う概念なのだ。また、「メンタルが弱い」というのも違う。確かに、敏感でメンタルが弱いという両方の特性を持つこともある。しかし、メンタルが弱いというのは、「神経症的傾向が高い」と表現し、「心配しやすい」「すぐ落ち込む」「恐怖を感じやすい」などの特性を表す。なので、敏感性とは近いが違うのだ。そのことを、本書は教えてくれるので、僕自身の評価は高い。実に分かりやすい本である。

 

 この本は、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロンという人が書いた本である。彼女自身、かなり敏感だと公言しており、HSPの特性を持つ人に向けて、カウンセリングを実施したり、講演を実施したりしてきた。本書には、HSPの尺度を測る診断テストおあり、大体の自分の敏感性を確認できる。もちろん、そこまで敏感じゃない人も読むことで、敏感性が高い人の特徴や接し方が分かるので、多くの人にお勧めできる。

 僕は、この本が大いに参考になった。ぜひ、手に取って、ご一読いただきたい。

 

参考文献

エレイン・N・アーロン(2020)『敏感すぎる私の活かし方―高感度から才能を引き出す発想術』片桐恵理子(訳) パンローリング

【書評】こうして僕らは人間関係で「だまされ」るんです。『残酷すぎる人間法則 9割が間違える「対人関係のウソ」を科学する』

 

 さて、これをお読みの皆さんは、人間関係についてどのような考え、あるいは信念を持っているだろうか?そして、その信念は、どのように形成されてきたのだろうか?ちょっと振り返っていただきたい。よろしいだろうか?その信念を頭の片隅に持ちながら、この書評を読んでいただきたい。本書は、人間関係について多くの人間が犯しがちな「ミス」や「ウソ」をぶった切る本である(タイトル通り)。僕は、この本を読んで「は?」と思ったことが何か所もある。多くの本やインターネットサイトが勧めているあの行為が、実は自滅の足跡を残したり、多くの人がどれだけ人間関係で自分の能力を過信しているかがよくわかる。それを今回は紹介しよう。

 

 そもそも、前提として、僕たちは元来、相手の立場に立って考えることがかなり苦手な動物なのだ。どのくらい苦手かというと、人間の感情読み取り能力の精度は、何と20%~35%なのだ。まぁ、これは僕の感覚にも合致する。実際に僕は、人の感情なんて言ってもらわないと分からないと、前妻や元彼女に豪語して怒らせてきた人間だ。確かに、感情なんてわからない。実際に、パートナーの自尊感情を予測してもらう実験では、精度が44%となっている。しかし、人間がお粗末なのはここからで、自分の評価の正確性を自己評価してもらうと、何と多くの人が「82%正しい」と思っているのだ。なのに、実際の精度は、その半分ほど。相手の感情に関しては、40%もいかない。このような意味で、自分の能力を過信している。ちなみに、能力が低い人ほど、自分の能力を過信する心理効果として、「ダニング・クルーガー効果」があるので、これとも関係しているのだろう。何とまぁ、お粗末で恐ろしい。僕は、寒気がする。

 

 また、よく勧められるあの行為にも触れておきたい。「傾聴」である。多くの人は、人の話を丁寧に聞く傾聴が大切で、まずは相手の話を聞きましょうと教わるし、そのようにアドバイスされる。特に、夫婦関係だとそうだ。「傾聴しましょう」と勧められる。実は、この「傾聴」、何と家族には効果がないのだ。これは、本書の冒頭に書かれている。言い換えれば、傾聴が効果的なのは、誘拐犯やテロリストと話す交渉人や、相手の問題を第三者的にみられるカウンセラーなのだ。これを裏付けるデータも出ている。心理学者のゴッドマンは、夫婦セラピーを受けた人たちを追跡調査した。その結果、関係を修復できたカップルは、何と18%~25%に過ぎないというのだ。僕を含めて、多くの人が間違えているではないか!何てことだ!では、どうしてなのだろう?まず、傾聴は効果が短期的なのだという。つまり、一時はおさまっても、再び再燃する。言い換えれば、解決した気になっているのだ。また、次の推測もできる。傾聴は、相手の話を聞くという行為から、常に一方的なコミュニケーションとなってしまう。すると、片方の考えしか分からず、お互いの透明性が確保できない。基本的に、人間関係は、自己開示によって深まるという研究データも出ているので、それを鑑みると、傾聴が限定的なテクニックであることは容易に想像がつく。

 

 この本は、人間関係に悩んでいる人なら、うってつけの本だ。この書評には書ききれなかった、役立つ知識が、多く載せられている。この本に共通して言えるのは、「人生の幸福度を決めるのは、人間関係である」というメッセージが込められていることだ。ちなみに、この理論にも例外はあるのだけれど。著者のエリック・バーカーは、以前にも『残酷すぎる成功法則』という、科学低位な自己啓発本を書いた。論文に基づいているので、下手なサンプル数1の本を読むより、役に立つだろう。しかも、論文を使って常識を切り刻んでいくのが爽快だ。

 

 さて、最初の話に戻ろう。冒頭で思い出した、あなたの人間関係の信念は、どのように変化したのだろう。ちょっと変化した人は、本書を手に取ってみるといい。きっと、他にももっと多くの考えが変わるだろう。ピンとこなかった?なら、まずは本書の第1章を読んでみよう。それから自分の考えがどうなるか、観察してみると、何か起こるかもしれない。

 

参考文献

エリック・バーカー(2023)『残酷すぎる人間法則 9割が間違える「対人関係のウソ」を科学する』橘玲(監訳) 竹中てる実(訳) 飛鳥新社

【書評】共感しすぎて疲れやすい人が無理せずに生活する方法『LAの人気精神科医が教える 共感力が高すぎて疲れてしまうがなくなる本』

 皆さんの周りに、時々こういう人がいないだろうか?人混みに行くだけで気分が悪くなる、すぐに泣く、いつも恋愛では変な人と付き合っている、自分の感情を言ってもいないのにドンピシャで当ててくる、という人である。僕の知り合いにこのような人がいた。感情を読み取る能力が文字通り高く、多くの人に話しかけられる人だった。今はその人とは連絡を取っていないが、話していたころは「なぜ手に取るようにわかるの」と常々疑問を持っていた。本書を読むまでは。この本は、上記のように、共感力がやたら強く、感受性もずば抜けて高い人について、精神科の先生が書いた本だ。筆者であるジュディス・オルロフは、このような人々に「エンパス」と名前を付け、エンパスの人が行きやすくなるにはどうすればいいのかを探している。エンパスは、まだまだ研究が始まったばかりの分野で、分かっていないことも多いという。しかし、エンパスの傾向を持っている人たちは、彼らなりの苦労を抱えている。そして、同時に「とても想像力豊か」という強みも持っている。本書は、そのようなエンパスの特徴と対策法をふんだんに盛り込んだ、バイブルのようなものだ。今回は、本書を読み、思ったことを書いていく。

 

 まず、共感しすぎることがメリットであることが多い、ということが挙げられる。共感力が高ければ、相手の感情を理解できるし、コミュニケーションもスムーズに行く。共感力があるため、優しく、相手の言うこともきちんと聞く傾向がある。それは、感受性が高いことによる恩恵ではないのか。実際に、人間関係が人生の幸福度を決めるというデータも出ている。なので、人さえ選べば、エンパスは人間関係で幸せになれるのである。故に、周囲からみて「気にしすぎ」だと言いたくなる特性は、ずば抜けて高い感受性と共感力の裏返しだ、とわかる。なのであれば、弱いということにはならない。その強みを上手に使えば、うまく今の刺激過多の世界でも、難なく暮らしていくことができる。そのことを本書は教えてくれるので、かなり心強いだろう。僕はエンパスというよりはASD傾向のほうが強いが、この本の知識を実践している。例えば、運動や瞑想だ。僕もエンパス傾向の人同様、緊張しやすい。それを暮らしやすい程度まで改善するために、体を鍛えたり、内面を見つめたり、ということを毎日やっている。おかげで、今では、難なく生活できている。

 

 もう一つ、これは上記のこととも関わってくるのだが、本書から「自分の傾向はある程度把握しておく必要がある」ということを改めて学んだ。人間は確かに自分のことについて、わずか10%ほどしか理解していない、というデータは存在するものの、自分をある程度把握する行為というのは無駄にはならないだろう。例えば、人混みに行って頭痛を催しやすいことが分かったら、「人混みを見つけたら、回り道をする」というルールを設定してもいいだろう。このような対策は、自分の特性をある程度把握していないと、設定することもできないし、実際に行動するのも難しくなってくる。故に、ビッグ5(科学的に最も信憑性の高い性格診断)を使ってみたり、自分の感受性などを分析するのが欠かせない。例えば僕の場合は、緊張したらその緊張に意味を考える、という行動を設定している。緊張するということは、要は体が問題の解決に向けて反応しているということになるからだ。このように、自分の関わっている特性について知っておくことは、とても重要だ。

 

 この本は、タイトル通り、共感しすぎて疲れる人に向けた本である。他人の感情の影響を受けすぎるという人や、周りの音やにおいに敏感という人にはうってつけの本だろう。エンパスではない僕にも学べることがあるのだから、エンパス傾向を持っている人には必読と言えよう。また、この分野は研究が進んでいないので、現時点ではもっとも頼りになる本である。

 

 僕自身、感受性が高く敏感で、更に不安になりやすく落ち込みやすいという、一般的に見ると生きづらいような特性を持っている。しかし、そんな僕でも、対策すれば暮らしていける。エンパスについても知れる本なので、多くの人に読んで欲しい本だ。

 

参考文献

ジュディス・オルロフ(2019~2020)『LAの人気精神科医が教える 共感力が高すぎて疲れてしまうがなくなる本』桜田直美(訳) SBクリエイティブ

【書評】何故天文学者は徹夜で観測するの?『暗闇のなかの光 ―ブラックホール、宇宙、そして私たち』

 皆さんは、どのように天体を観測するのか、ご存じだろうか?多くの方は「望遠鏡で観測している」ということは、イメージがつくだろう。地球の周りには、ハッブル宇宙望遠鏡もある。では、ここから5500万光年の距離にある、ブラックホールを観測するにはどうすればよいかと聞かれたら、皆さんは、どのように考えるだろうか?まず、「5500万光年」という距離が、途方もなさすぎる。地球から光の速さでも5500万年かかるのが、想像つかない。更に、そこにあるブラックホールを観測するなんて不可能だと思うだろう。何と、それをやり遂げた人物がいる。その人物こそ、本書の著者であるハイノー・ファルケである。彼は、オランダにあるラドバウド大学の教授を務める、宇宙物理学者だ。本書は、ファルケ教授が同僚とともに、どのように途方もない距離にあるブラックホールを観測したのかを書いている、回想録である。専門用語も出てくるが、実に読み応えのある本である。今回の書評では、本書のどこが面白かったのか、そして、どのようなことを学んだのかを、書いていく。

 本書の何が面白いかというと、そもそもブラックホールの存在を証明しようと、徹夜で観測に挑んだ天文学者がいる、という事実である。僕は、何故そこまでして観測するのか、かなり疑問だった。徹夜は、文字を見るからに体に悪い。睡眠不足は、アルコールを体に入れたのと同じくらいの判断能力に低下させる。また、睡眠不足では、僕たちの魅力は30%も減少する。つまり、彼らは、「ブラックホールの存在証明」という人類の快挙に、自分の身を削ってまで挑んだ、猛者中の猛者、ということになる。では、そこまでして観測した理由は、一体何だったのであろうか?その答えも実にシンプルである。「ブラックホールについて知りたい」という好奇心である。詳しところは本書に譲るが、著者曰く「今まで私たちは、ブラックホールの存在を状況証拠で説明してきた。私は、ブラックホールが、犯行を犯している、つまり直接星を飲み込んでいる証拠を掴みたかったのだ」という。実に、頭が下がる。

 更に、本書の結論が、実にシンプルなのだ。本書の終わりには、著者であるファルケ教授が大切にしていることが書かれている。その結論とは、「我々人間は、常に疑問を持ち、探求し続けるべきである」なのだ。実にシンプルかつ、分かりやすい結論だ。しかし、ここにも重要な意味が込められていると、僕は考える。疑問を持ち続けるということは、つまるところ「僕たち人間には限界がある」ということだ。そもそも、完璧ならば、疑問何て持つ必要がない。しかし、現に人間は、多くのミスを犯す。なので、人間の知性は、有限なのだ。にもかかわらず、何故筆者はこの結論にしたのだろう。僕の想像だが、あまりに多くの人間が、この限界に気付いていないからだ。実際に「90%の人間は、自分は全体人類の半分より頭がいいと評価する」というデータも出ている。90%の人間が、全体人類の半分より頭がいいことなんて統計上ありえない。なので、このデータからも、如何に人間が思い込みに支配されやすいかが分かる。筆者は、そのことを理解しているからこそ、この結論にしたのだと思う。

 本書は、ラドバウド大学の教授である。ハイノー・ファルケ教授によって書かれた、回想録である。2019年にブラックホールの写真が公開されたが、あのブラックホールの撮影に関わっている人物の一人である。宇宙物理学者で、子供のころから好奇心が強かったらしい。彼が小さいころ、自宅のアパートの向こうにある世界を知りたくて、釘で穴をあけ続けたというエピソードも載っている。ちなみに、穴は結局あかなかったそうだ。

 僕は、このような偉大な人の本を読めたのだ。かなり、ありがたいことである。本書は、専門用語も多少出てくるが、如何に人類の進歩が成し遂げられたかを知れる、貴重な本である。ぜひ、手に取っていただきたい。

参考文献
ハイノー・ファルケ、イェルク・レーマー(2022)『暗闇のなかの光 ―ブラックホール、宇宙、そして私たち』吉田三知世(訳) 亜紀書房